災害時の対応業務は多岐に渡る。道路や水道の復旧、税の減免などは行政が詳しい分野だが、避難所や救援物資に関しては多くの自治体にノウハウがない。平時にどんな対策をとる必要があるのか、物資とその配送にスポットを当て、東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターの宇田川真之さんに課題と対策を聞いた。
※下記はジチタイワークス防災・危機管理号(2019年6月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
備蓄すべき物資と保管方法は?
災害直後から必要となる物資として、生命維持に必要なもの、すなわち水や食料、毛布などがおのずと備蓄の優先度も高くなる。食料も熱源なしで食べられるものが必須で、今ならレトルト米などが主流だ。さらに近年は、アレルギー対応食や、糖尿などの持病を持つ人への対策の重要性も認識されるようになり、高齢者や乳児のことなどへの配慮も望まれる。同時に、消費期限切れ食品の廃棄ロスも問題になる。
宇田川さんは備蓄品の廃棄ロス対策として「防災訓練時に配布する、フードバンクを活用する、子ども食堂などで提供する」といった有効活用を提案しつつ、より効果的な方法として民間と連携したローリングストックの備蓄の検討も推奨する。「食品メーカーや流通企業などと契約し保管料を払って、適正在庫+αの量をストックしてもらいます。企業では商品を循環させるので廃棄は出ません。自治体も保管場所や管理の必要がなくなります。仙台市などで実践されている方法です」(宇田川さん)。
他に、備蓄品を物流企業の倉庫に預けるという方法もある。物流企業はトラックなどを保有しているため、備蓄品の輸送も含めて委託することが考えられる。こういった“公助”の備蓄対策とともに、住民の“自助”を推進する取り組みも重要だと宇田川さんは強調する。各世帯には乳児、高齢者、障がい者、病人など様々な人がいて必要な物資も異なる。災害発生時、家族に適した必要なものを欠かさないように、各世帯での備蓄が進むよう、住民への啓発が重要だ。また、各世帯だけでなく各事業所での備蓄も大切だ。災害発生時に勤務先などで待機となった場合には水と食料が必要になる。こういった点が理解され、自助の備蓄が増えれば、それを補う公的な物資支援はより効率的に行える。
物流面での課題と対策
災害発生後の救援物資の物流についても、調達と同様、民間との連携が必須だと宇田川さんは語る。「大規模な災害の場合、膨大な救援物資を公用車で職員が配送することは、自治体にとって負担が大きくなります。物資を効率的に届けるための設備や資機材を、行政は所有していません。だから民間との連携は欠かせません」(宇田川さん)。
国などからの救援物資は、大きなトラックで被災地に送られる。これを多数の避難所に届けるためには、途中で小さな車両に積み替える必要がある。この物流拠点として、体育館を利用することを考えている市町村も多いが、飲料などの重量物を大量に入れると床が抜けてしまう。当然フォークリフトも入れないため、搬出入は人海戦術になる。大量の物資が相手だと時間がかかり、人も疲弊してしまうのだ。こういった課題に取り組んでいる市町村は少ないが、予め備えておくことが重要だと宇田川さんは語る。
実際、熊本地震や西日本豪雨などの際には、地域の物流企業やJAの倉庫の提供を受けられた自治体では、職員の負荷を大きく軽減でき、市民にも効率的に物資を提供できるようになった。日頃から地域の民間事業者と、あらかじめ物資拠点として使わせてもらえそうな候補を相談しておき、災害時に協力を得られるよう協定を結んでおくことが望ましい。物流企業の少ない地域などでは、近隣の複数の自治体で民間事業者・団体と相談している地域もある。 いずれにしても、大規模な災害の場合、自治体だけでの物流対応はほぼ不可能に近い。応援を受ける前提で受援計画を立て、協定締結企業との顔の見える関係を作っておくことが大切だ。なお、避難所に来られない市民への配布では地域の住民組織やNPOなどとの連携も重要だ。
HowTo
01救援物資に関わる担当者は、庁内1カ所に集まって業務を行なう
輸送や調達、ニーズ把握の担当部署が、福祉や税務など別部屋に別れて作業すると情報が錯綜するので、それを避けるため1カ所に集合する体制に。
02 物資拠点は、できるだけ物流機材が利用できる場所を確保する
国交省のハンドブックなどを参考に、平時から物流事業者に相談し、借りられるように。物流企業の少ない地方では、JAの倉庫などに相談を。板張りの体育館しかない場合、段差のない経路を確保し、屋外での荷降ろしをフォークリフトで行い、ハンドリフトで屋内に搬入するなどの工夫を。
03 住民の備蓄の推進
市町村では、住民の備蓄が進むように日頃から啓発を。農水省のパンフレットなどを利用し、無理のないローリングストック形式の買い増しでの家庭備蓄を促す。
04 民間との連携
行政には物流に必要な機材や施設、ノウハウがないため、物資の調達では民間との連携が不可欠。平時から応援協定を締結しておく。また、締結した応援協定が有効なものとなるよう、締結後も相互の担当者の連絡先を確認し、できれば合同で訓練も。
Results
自治体だけでは、災害時の救援物資の物流業務を円滑に行うことは極めて困難。平時から、民間事業者と連携できる体制や計画を立て、訓練などを通じて顔の見える関係を作っておくことが重要。
市町村では、普段の行政業務にない救援物資対策にまで手が回っておらず、体育館や行政庁舎で物資を受け取り、公用車で職員が避難所などに配布する計画の団体も多いと思います。しかし大規模な災害の際に、そうした方法では被災者に物資を届けることは難しく、職員の負荷も大きくなります。少しずつでも民間事業者と連携できる体制を作っていくことが大切です(宇田川さん)。
本記事関連資料URL
農林水産省:家庭備蓄ポータル
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/foodstock/index.html
国土交通省:ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック
http://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/last.html
東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター特任助教宇田川真之さん
東京大学大学院理学系研究科地球惑星物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。東京大学地震研究所、人と防災未来センターなどを経て、平成30(2018)年度から現職。専門は災害情報,被災者支援など。