老朽化が進み、施設の安全確保が叫ばれる公共施設。将来的な施設の老朽化対応や最適配置に向けて今、公共施設の適切なマネジメントの必要性が高まっている。
公共施設マネジメント(Public Facility Management:以下、公共FM)の第一人者である東洋大学 客員教授 南 学さんに話を聞いた。
※下記はジチタイワークス特別号 June 2020(2020年6月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
きっかけは「財政難」と「安全確保」。
そもそも公共FMが重要視されるようになった一番の理由は、「地方自治体にお金がない」からでした。公共の施設や学校といった“ハコ”が次々に建てられるようになったのが約50年前のこと。それから年月が経ち、バブル経済がはじけてリーマンショックが起こり、経済状況は徐々に悪化していきました。膨れ上がる医療・福祉、災害対策などの費用もあり、老朽化した施設を、そのままの形態・規模で建て替える財源が用意できなくなったのです。
老朽化した施設の安全確保を怠ると、住民の命を脅かす危険が生じます。平成18年に埼玉県ふじみ野市では、市が運営するプールで小学2年生の児童が吸水口に吸い込まれて亡くなるという大変痛ましい事故が起きました。プールの管理は民間事業者へ委託されていましたが、最高裁は市の担当職員の業務上過失致死傷罪を確定させました。適切な安全確保ができない場合、自治体の職員が刑事事件の被告人となるリスクがあるのです。
「包括管理」という解決策。
そこで注目されるようになったのが、公共FMでした。民間の資金・ノウハウの活用も図りながら、限られた財源の中で公共施設を複合化・多機能化して面積を縮減し、サービスを維持していく考え方ですが、縦割りの所管課ごとの施設とその管理の下では、容易ではありません。この状況を打開する手法の一つとして、取り入れられているのが「包括管理」。これまでのように所管課で管理する縦割りではなく、管理業者が施設を一括して包括的に管理する方法です。安全確保やコスト削減だけでなく、課を横断した情報収集など数々のメリットがあり、庁内合意のみで始められるという点でも、公共FMの“はじめの一歩”だといえます。
あなたのまちの公共施設には、このような“危険だけどそのままになっている”場所はないだろうか。
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PROFILE
東洋大学 客員教授 南 学さん
横浜市生まれ。1977年、東京大学教育学部を卒業。同年横浜市役所に就職。1989年、カリフォルニア大学(UCLA)大学院に留学。帰国後、市立大学事務局、市長室等を歴任し、2000年、静岡文化芸術大学文化政策学部助教授に。横浜市立大学教授、神奈川大学特任教授を経て現職。自治体の経営・マネジメントを研究。また、行政刷新会議の事業仕分けにも民間評価者(仕分け人)として参加。著書に「成功する公共施設マネジメント」「実践!公共施設マネジメント」「横浜市改革エンジンフル稼働」など多数。